遠い昔 雪の日の屋台ラーメン 

昔懐かしいチャルメラの音が突然聞こえてきた。テレビの音かと耳を澄ましたがそうでもないらしい。今時珍しいと思い耳を澄ませていると、何処からも声のかかる事も無く、チャルメラ音は妙に寂しげに遠ざかっていつた。

最近のグルメブームはあらゆる食品に亘って、拘りとか匠等を前面に押し出しているが、それほど美味しいと思った経験は数少ない。

しかしあの時のラーメンは美味(うま)かった。(おいしいでのは無く飽く迄もうまいのです)それは昭和30年半ばの頃酒を飲んでの帰り道、当時はタクシーには庶民は滅多に乗る事も無く大抵は家まで歩いて帰ったものです。深々と雪の降る夜中の一時頃、寒さに両手をオーバーにつっ込み、当時流行の中折帽子(ソフト)を目深に被り、時折ソフトの縁にたまった雪を首を縦に振って落としながらふと、上目使いに見た雪明かりに霞む屋台の温かそうな灯火に、ついふらふらと入ッたものです。外から見た明るさよりも意外と暗い店内で、「ヘイ いらっしゃい」ぼそりと愛想も無い低い声での応対の店主ではあったが顔は笑っていた。「お客さん寒いでしょう。先ず温んなよ」そう云って足元に置いて呉れた七輪の火の何と心良かった事か。

当時のラーメンの値段は50円でしたが、それでも外食そのものが充分贅沢なひと時だったあの時代、寡黙で深入りをしない中にも、敢えてお喋りになる親父さんの暖かさが其の儘ラーメンに伝わってくる、そんな味でした。

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